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紙パルプ研究委員会の活動について |
紙パルプ研究委員会の活動について 本研究委員会は平成11年9月25日の理事会において活動状況の報告を行ったが、本稿はその内容を中心に最近の状況を加筆して報告したものである。
1.研究委員会創設の背景 紙が中国で紀元前2世紀に発明され、朝鮮半島を経て7世紀にわが国に渡来して約1200年、近代的な洋紙技術が18世紀末にフランスで発明され約200 年、また明治時代に洋紙製造が始まって約120年が経過した。戦後の紙・板紙の1946年の年産21万dから1997年の3000万dまで約50年間で 150倍に拡大した。世紀の転換期にある現在、製紙業界では地球環境問題、新しいメディアの出現、グローバル化 した市場への対応など、多くの問題に関心が集まっている。この様な歴史的な背景および現状認識の基に繊維学会紙パルプ研究委員会は活動を行っているが、創 設は1962年にである。本委員会は歴史の長い産業が背景にあり、その時々の社会状況に対応した技術革新も活発なので、取り上げるべき課題も多くバラエ ティーに富んでいる。2.活動状況 委員会は企業および大学・国公立の研究機関からの委員約50名で構成し、その約10名で幹事会を構成し、例会のテーマ、シンポジウムのテーマ、運営など の審議を行っている。現在は定例の研究会を年に5回行い、基礎的なセルロース科学から塗工や加工など周辺技術の製紙技術への応用まで幅広いテーマを取り上 げている。また毎年秋に行うシンポジウムでは幹事会の中で何度か討論を重ね、時代性のあるトピックスを取り上げ、最近では感性やマルチメディアなど紙パル プ研究委員会はその時代のテーマを業界 より先取りし、活動しているといえよう。1999年秋には時代の転換点として<20世紀から次の時代へ>というテーマのシンポジウムを開催し、紙パルプ産 業の各種の技 術の現状の総括と将来の見通しを行い、多数の参加者を集めた。会員への広報活動としては<News Letter >を年に2〜3回発行し、委員長による年頭の挨拶の中で製紙業界の現状分析からシンポジウムのテーマの提案募集の呼びかけを行っている。また若手研究者の 奨励の意味で紙パルプ論文賞を設け、秋に公募し紙パルプ分野の研究論文の繊維学会誌への投稿を促 している。
3.将来への課題 業界から独立した形で出来る限り学会と業界の共通の関心のあるテーマをどのように 設定して行くかが重要であり、絶えず産業と技術の現状を把握している必要があり、最先端の情報収集が欠かせない。テーマの設定と同時に重要なのは会員以外の関係者への広報活動であり、繊維学会全体の企画と同様、主催者側が良いテーマと自負していても 勧誘のアクションを積極的に取らないと採算分岐点を越えられないというリスクを抱え ている。また委員会の活動の社会的な還元と言う意味では紙パルプ関係の総説を繊維学 会誌に掲載する機会はあまりなく、シンポジウムの協賛団体である紙パルプ技術協会の定期刊行物「紙パ技協誌」に掲載している。
4.その他 紙パルプ産業は21世紀に向けて資源・エネルギー・環境など多くの問題を抱えなが らも、それらの制約条件の克服が技術革新の牽引力となっているという側面があり、市場からのニーズへの対応のための技術開発と同様、消費者には余り見えな い形での技術 革新が絶えず行われている。戦後内需に依存し成長してきた為に現在の繊維産業が抱え るようなグローバル化市場での産業の将来に対する危機感はそれほどなく、低成長型だが、比較的安定した産業といえるのではないだろうか。合成繊維が主流の 繊維学会だが、最近将来の石油枯渇への危機感からバイオ的方法に よる天然物から合成繊維を製造するための研究開発が活発になりつつある現状を見ると、バイオマス利用産業として長い歴史をもつ紙パルプ産業が学会全体の中 で改めて見直 されてもよいのではないだろうか。この業界の状況は委員会の体質にも反映し、業界から委員会への期待と要望はあっても業界側の意図を強制するような側面は なく、大学人と業界(製紙メーカー・ユーザー・資材メーカー)とはテーマの設定などにおいて適度な緊張感を保ちながらも紳士的な 関係にある。今回委員会の活動状況を執筆する機会を与えられたが、各委員会に活動の現状を見直し、適度な緊張感と責任感を喚起する良い機会であろう。最後 に最近のシンポジウムの テーマの一覧を掲げる。
第1回 | 1964年 | 叩解に関するシンポジウム |
第2回 | 1965年 | 蒸解に関するシンポジウム |
第3回 | 1966年 | パルプの漂白に関するシンポジウム |
1967年 | 紙と合成ポリマー講演会 | |
第4回 | 1969年 | 合成紙に関する講演会 |
第5回 | 1970年 | 化繊紙に関するシンポジウム |
第6回 | 1971年 | 製紙工業におけるコンピュータの利用 |
第7回 | 1972年 | 酸素・アルカリ蒸解および漂白シンポジウム |
第8回 | 1973年 |
紙パルプ産業における排水処理とスラッジ利用に関するシンポジウム |
第9回 | 1974年 | 情報産業と紙に関するシンポジウム |
第10回 | 1975年 | セルロースに関するシンポジウム |
第11回 | 1976年 | コーティングに関するシンポジウム |
第12回 | 1977年 | 軽量紙と紙匹物性についてのシンポジウム |
第13回 | 1978年 |
紙の物性に関するシンポジウム |
第14回 | 1979年 |
紙の物性に関するシンポジウム(II) |
第15回 | 1980年 | 紙の表面化学 |
第16回 | 1981年 | 紙パルプ産業における省エネルギー |
第17回 | 1982年 | 加工材料としてのセルロース |
第18回 | 1983年 | 最近の加工紙および加工技術 |
第19回 | 1984年 | 特殊紙用繊維素材の可能性 |
第20回 | 1985年 | 製紙における最近の技術動向 |
第21回 | 1986年 | 製紙における最近の技術動向(II) |
第22回 | 1987年 | 情報産業用紙の動向と将来 |
第23回 | 1988年 | 塗工紙をめぐる最近の技術動向 |
第24回 | 1989年 | パッケージング技術の新展開 |
第25回 | 1990年 | 紙の薄葉化・軽量化の最新技術 |
第26回 | 1991年 | 紙の高付加価値化のためのハイテクマテリアル |
第27回 | 1992年 | 周辺分野から紙を見直す |
第28回 | 1993年 | 紙の高品質化をめざした最新の制御とシステム技術 |
第29回 | 1994年 | 紙の感性機能−マルチメディア時代の新しい役割を求めて |
第30回 | 1995年 | 紙パルプ研究の将来像を求めて |
第31回 | 1996年 | 製紙薬品の最前線−プロセスの最適化と製品の高品質化を求めて |
第32回 | 1997年 | ペーパーマシンの最前線 |
第33回 | 1998年 | デジタルカラーイメージングのための紙・印刷・ハードコピーの最新技術 |
第34回 | 1999年 | 20世紀から次の時代へ |
第35回 | 2000年 | 製紙技術−21世紀への挑戦− |
第36回 | 2001年 | 紙物性の最適化を目指して−最近の理論と評価法− |
第37回 | 2002年 | 新時代に紙の進化を考える−機能とは何か− |
第38回 | 2003年 | 製紙における新展開技術−省資源、省エネ、省人化とその展開 |
第39回 | 2004年 | 国立大学・研究所の法人化と紙パルプ研究の将来 |
第40回 | 2005年 | サプライヤーの経験から中国の紙パルプ市場の特徴を探る |
第41回 | 2006年 | 紙の高機能化・高性能化のための最新塗工技術の展開 |
第42回 | 2007年 | 塗工紙原材料の現状と将来 −2008年問題への対応− |
第43回 | 2008年 | 製紙産業と地球環境問題 |
第44回 | 2009年 | 紙パルプおよび周辺技術の先端的研究開発動向と将来展望 |
第45回 | 2010年 | 製紙産業の将来展望U - ナノファイバーから電子出版までの最新動向を網羅する |
第46回 | 2011年 | 製紙産業の将来展望V-震災からの復興を契機とした新たなる紙の価値観創造 |
第47回 | 2012年 | 製紙技術と製紙産業の潜在力を顕在力に |
第48回 | 2013年 | 成功事例に学ぶ新技術開発のヒント |
第49回 | 2014年 | 製紙産業革命の渦中で考える紙パルプ技術のあるべき姿 |
第50回 | 2015年 | ユーザーがICT時代に求める紙製品の最新動向 |
第51回 | 2016年 | ユーザーがICT時代に求める紙製品の最新動向U |
第52回 | 2017年 | 豊かな社会づくりに貢献する製紙技術と紙パルプの未来 |
第53回 | 2018年 | 紙パッケージの新時代を創る機能化と材料科学 |
第54回 | 2019年 | 紙はプラスチックを超えられるか |