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紙パ技協誌, 51(4): 635-644(1997)

塗工紙の曲げこわさの評価法と制御

大篭幸治(*), 江前敏晴, 尾鍋史彦
東京大学 大学院農学生命科学研究科
生物材料科学専攻 製紙科学研究室
〒113 東京都文京区弥生1-1-1

(*)現在の所属: 日本製紙樺央研究所

要旨

塗工紙の曲げこわさがどのように発現するかを、塗工層のヤング率を求めることにより評価し、さらに、カラーの組成、ダブル塗工がどのように曲げこわさに影響するかを調べた。 紙詰まりのない円滑な印刷を行うには紙に曲げこわさが必要である。塗工紙の場合は通常原紙の性質が塗工紙全体の力学的な性質を決めることが多いが、曲げこわさに関しては、外側にある層ほど歪みが大きくなるため、塗工層のヤング率は塗工紙全体の曲げこわさに大きな影響を与える。 本研究ではまず、片面塗工シートのクラークこわさから塗工層のヤング率を計算する方法を理論的に考察した。また実験的には、クラークこわさ及び純曲げこわさから塗工層のヤング率を計算した。その結果、塗工ベースとして紙を使用し、未塗工の原紙の厚さや坪量を計算に用いると正しく塗工層のヤング率を計算することができないことがわかった。これは膨潤による厚さ増加、ヒステリシスによる坪量の増加、界面のラフニングなどが水の吸収によって起こるためで、PET(ポリエチレンテレフタレート )のような吸収性のないフィルムをベースとして使用しなければいけないことがわかった。 デンプンの配合はデンプンとSBラテックスのブレンドフィルムのヤング率を向上させた。これは同じバインダー組成の塗工層でもデンプンを多く配合することによりヤング率が上がることを示唆する。またプラスチックピグメント(PP)は粒径の小さい方が塗工層のヤング率が高くなったが、炭酸カルシムを顔料とした場合と同等であった。しかし、PPは比重が小さいので自重に対する曲げ抵抗の向上が期待できる。ダブル塗工でデンプンを多く配合したヤング率の高い層を外側に配することにより塗工紙全体の曲げこわさを向上させることができた。

1. 緒言

塗工紙に関する研究は、高級印刷用紙という用途のためか、主に印刷適性や塗工カラーのレオロジーなどが対象として採り上げられることが多く、力学的物性に関する研究例は少ない。しかし、力学的物性を明確にすることにより、印刷機上で塗工紙が受ける曲げ変形や圧縮変形、印刷に対する耐久性などを解明できるようになる。このような力学的物性に大きく依存する問題として、複写機や光学的文字読み取り装置、枚葉印刷機などで発生する給紙トラブルがある。つまりこしのない紙が印刷ニップに送られずに紙づまりを起こす問題である。特に塗工紙では、未塗工紙と比較してこしが低いので問題を起こしやすい。

このような曲げに対する材料の性質として、通常材料力学的解析では、明確な物理量である“曲げこわさ”を用いる。定義はヤング率Eに断面2次モーメントIを乗じたEIであり、単に“こわさ”または“曲げ剛性”とも呼ばれ、材料の曲げに対する抵抗性を表す。一方、紙に“こし”がないと言われるときの“こし”は明確に定義される物理量ではなく、人間の主観的判定により評価される。“こし”は、一般に曲げこわさと相関があると考えられているが、数森ら )によれば、同一の曲げこわさEIを有する紙を比較した場合、断面2次モーメントIよりヤング率Eが大きい程その紙にこしがあると判定される傾向にあるという。しかし、実際にはこしの主観的判定基準は外力に対する曲げ抵抗性の他、自重による瞬間的な(Snapping) 曲げ抵抗性、自重によるゆっくりした曲げ抵抗性、紙の厚さ、曲げからの回復特性などにもあるという調査結果を得ている。

こわさに関連した物理量をいくつか挙げると次のようになる。“クラークこわさ”は、紙が自重によってたわむときの曲がりにくさを意味する。“純曲げこわさ” , )は試料のどの部分も同じ曲率で曲げられるような装置を利用したときの曲げこわさを試験片の幅で除したものである(片持ちばり式のクラークこわさなどでは支持点に近いほど曲率が大きくなる。)。“ライブリネス”は、織物の曲げ回復性を表現するときの指標で、一定曲率からの回復速度を意味するが、内藤ら )はこれを紙に応用し、瞬間曲げ回復性を主に曲げこわさと対応させて考えるために、ライブリネスを「曲げ回復時間の2乗の逆数」と定義した。吸盤によって給紙される枚葉型のオフセット印刷機などでは自重(慣性)により曲げられたあとの回復速度が重要であるので、曲げこわさよりクラークこわさやライブリネスの方がよく対応することが予想される。表1は、以上述べてきた曲げに関する種々の物理量を整理したものである。

未塗工紙の曲げこわさに関する研究報告は、多数みられるが、塗工紙のこしに関しては研究例は多くない。内藤ら )は種々の方法を用いて塗工紙の曲げこわさを測定しており、クラークこわさよりも純曲げによる曲げこわさの方が官能試験による“こし”との相関が高いことを報告している。また数少ない塗工層の物性に関する報告の中で、長井ら )は両面塗工紙の塗工層のヤング率をガーレーこわさから求めているが、実験室規模で通常調製する片面塗工紙には適用できない。

塗工紙の力学的な性質の大部分は原紙の性質によって決まる(例えば引張り強度)と考えられるが、こと、“曲げこわさ”に関しては塗工層の影響はかなり大きい。塗工紙では、曲げ操作で受ける変形量は外側に位置する塗工層部分の方がはるかに大きいためである。また塗工層の比重は原紙の約2倍であるため、自重によるたわみに対する曲がりにくさを示すクラークこわさは、たとえ原紙と同等のヤング率であったとしても塗工量の増加と共に低下(塗工量が少ないとき)することになる。

そこで本研究では、塗工紙を塗工層と原紙という2つの物質からなる複合材料と考え、塗工層が塗工紙紙全体の曲げこわさにどの程度寄与できるかという評価に視点をおいた。この意味で塗工層を評価するには、塗工量や厚さに依存せず、塗工層の組成や構造によってのみ決まるヤング率を測定、算出するのが最良の方法であると考えた。そこでまず、塗工層のヤング率を計算する手法を理論的及び実験的に確立した。次にデンプン及びプラスチックピグメントの配合が塗工層のヤング率に与える影響を評価し、最後に組成の異なるカラーをダブル塗工することによる効果を検討した。

2. 理論

2.1 片面塗工紙の塗工層のヤング率の計算法

 塗工紙を塗工層と原紙という2種類のそれぞれの均質物質が平行に並んだ層状構造をなす複合材料と仮定する。長井ら6)は、同質の塗工層を同一塗工量になるように両面に形成した場合について塗工層のヤング率の計算方法を示したが、実験室規模では厚さが等しく同質の塗工層を両面に形成させることは難しいため、片面塗工の場合を導いた。以下にその計算方法を示す。

全体の曲げこわさRaは、式(1)で表されるように、全体の平均弾性率Eaと全体の断面2次モーメントIaの積で表される(図1参照)。

・・・・(1)

塗工層の断面2次モーメントIc 、その弾性率Ec 、原紙の断面2次モーメントIf 、その弾性率Efとのあいだには式(2)のような関係がある。

・・・・(2)

次に、断面の底辺を基準軸(y軸)にとり、曲げによる歪みの起きない中立軸N-Nの位置を求める。 z軸方向にだけ曲げ応力が作用し、中立軸を原点にとったy0(y-N)軸に関して、その応力の積分値は0になるので、 式(3)が成り立つ。

・・・・(3)

y0=y-Nなので、これを式(3)に代入することにより式(4)が得られる。

・・・・(4)

これをNについて解くと下に示す式(5)のようになる。

・・・・(5)

式 (2)、(5)を用いると、塗工層のヤング率Ecは、式(6)のように求められる。従って塗工紙全体の曲げこわさRaを測定すればEcを計算できる。

・・・・(6)

2.2 クラークこわさからのヤング率の計算法

 クラークこわさは、古くから紙や織物の曲げこわさを測る標準法として知られている。クラークこわさから片面塗工紙の塗工層のヤング率を計算する方法を以下に示す。まず、クラークこわさは次のように定義される。細長い試験片の一端を挟んで固定し、試験片を上に向けて支持する。つかみを回転させていくとある角度の時に試験片はたわんだ側から反対側に反り返る。このときの角度を左右両側で測り、それらの差が90度となるよう、つかみから試験片を張り出させる。その時の、試験片の張り出し長さLの3乗の100分の1をクラークこわさとする。Clark自身の報告 )とJIS規格 )ではL をcmの単位で、Tappiの試験方法 )ではmmの単位で結果を示すことになっている。長さの3乗を用いるのは、小田ら )が示すように次の関係式があるからである。

・・・・(7)

小田らによると、張り出し長さL(cm)、ヤング率E(dyne/cm2)、厚さT(cm)、坪量W(g/m2)のように単位をとると両辺が等式の関係にあることが経験的に知られているという。

理論的には高寺 )らが導いているように傾斜片持ちばりの式、

・・・・(8)

で表される。ここで、qは試験片の自由端からの距離、qは位置qでの鉛直下向き方向からの角度、aは自由端の角度、 bは固定端のつかみの角度である。クラーク法では左右のふれ角度が同じであるとすればb=225°のときに反対側に反り返るという条件を満たすのはK=2.71のときであることを高寺らは計算している。このKは、材料のヤング率や厚さなどに無関係の(補正された)、単位のない張り出し長さを示す値に相当する。なお、これらの式での坪量は試験片の自重が試験片を曲げる力として作用するので実際には重力加速度を乗じた値を用いなくてはならない。従って、クラークこわさに関して理論的には次の等式が成り立つ。

・・・・(9)

式(9)の第1式では、それぞれの単位は式(7)と同じく、すべてをcgs単位系に合わせるため、坪量をW×10-4とし、単位がg/cm2となるようにした。またG=981(cm/s2)である。第2式では、cgs単位(坪量はg/cm2、長さ、厚さはcm、ヤング率はdyne/cm2)を使うか、mks単位(坪量はkg/m2、長さ、厚さはm、ヤング率はPa)を使う。

実際にLを測定するときは、空気の流れや振動に影響されて、試験片は早めに反対側に反り返ることが予想され、真のLよりやや短いLが実測されると考えられる )。また、一般的な経験式を導く場合はどのようにヤング率と厚さを測るかによって係数は変化するため困難であることは小田らが論じている通りである。紙の場合は、厚さの測定法によって厚さの値が左右されるため、予備実験では厚さの均一なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのヤング率を計算した。表2に示すように、理論から導かれた式(9)から計算したヤング率は超音波の伝播速度から求めた動的ヤング率に近かったが、文献値の約2倍の値となった。小田らの経験式(式(7)の両辺を等しいとしたもの)から計算したヤング率は動的ヤング率よりもかなり大きくなった。本研究では理論から導かれた式(9)によって塗工紙の曲げこわさRa(=EI)を測定し、式(5)、(6)により塗工層のヤング率を計算した。

3. 実験

3.1 塗工シートの調製

用いた塗工カラーの組成を表3に示す。炭酸カルシウムは白石工業鰍フBrilliant-15を、デンプンは王子コーンスターチ鰍フエースAを、SBラテックスは三井東圧化学鰍フTO-135を、分散剤には東亜合成化学鰍フアロンT-40を用いた。原紙として市販上質紙(ステキヒトサイズ度25秒、坪量64 g/m2)と、均質な塗工層を形成するため浸透が起きないポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ100 mm)を用いた。この市販上質紙とポリエチレンテレフタレートフィルムを以下それぞれ原紙、フイルムと呼ぶことにする。塗工量を変化させるためにワイヤーバー# 6、10、16(熊谷理機製)を用いて手塗りで塗布を行い、常温で乾燥させたあと、20 ℃、相対湿度65 %で調湿して測定に供した。(以下、調湿はこの条件で行った。)

原紙への吸水の影響を検討する実験では、原紙に蒸留水をワイヤーバー(# 10)で塗付し(片面だけに約10g/m2)、大気中で乾燥させ、調湿した後、純曲げ特性試験機で曲げこわさを測定した。

3.2 走査型電子顕微鏡による観察

塗工紙および塗工フィルムを約5 mm×5 mmの大きさに採取し、走査型電子顕微鏡用試料台に導電性両面テープで固定した。なお観察面は、塗工面に対して45゜の断面が得られるように切断した。イオンスパッター(日立製 E-1030)で300秒間白金コートし、走査型電子顕微鏡(日立製 S-4000)で観察を行った。

3.3 粗い界面形状を持つ塗工フィルムの調製

塗工層/原紙界面の形状(粗さ)の異なるモデル試料を調製するために、図2に示すようにホットプレス機の間に、フィルム、サンドぺーパー、テフロンシート、鉄板の順に中央から外側に積層させて置き、200 ℃で1分間熱圧締した。また熱によってフィルム自体のヤング率は変化したが、この影響を排除するために、サンドペーパーをはさまずに熱圧締を行ったものと比較した。これらのフィルムに表3の塗工カラーを塗布し、常温で乾燥させ調湿した。

3.4 クラークこわさ試験

JIS P 8143にもとづきサンプル幅30 mmとして測定し、有効数字3桁に丸めてクラークこわさを求めた。

3.5 純曲げ試験

 純曲げ特性試験機は、試験片のどの部分でも一定の曲率半径を持つように曲げるのが特徴4)で、曲げ変形開始時のこわさである初期曲げこわさと平均曲げこわさの値を測定できる。本研究ではすべて初期曲げこわさを示してある。試料は調湿したあと、原則として100 mm×100 mmの大きさに採取し、供試した。測定はMD方向(紙の場合)にスパン長50 mmとし、幅100 mmで行った。使用した装置は、純曲げ特性試験機JTC-1(日本精機製作所製)である。

3.6 塗工層のヤング率の計算

塗工層のヤング率は、クラークこわさからは式(5)、(6)により計算した。また純曲げによる曲げこわさからは、純曲げこわさSPB = ET3/12の関係から計算した。

3.7 塗工カラーの配合

塗工カラーの組成を変化させることによる塗工層のヤング率の変化の評価を試みた。

3.7.1 デンプンの配合

デンプンとSBラテックスだけからなるバインダー混合物を調製した。混合比率はデンプン:SBラテックス=0:15、3:12、5:10、7:8、10:5の5種類であった。これらをそれぞれフィルムに塗工し、乾燥した。調湿後、クラークこわさを測定し、PETフィルム上に形成されたブレンドフィルムのヤング率を計算した。

3.7.2 プラスチックピグメントの配合

炭酸カルシウムの代わりに合成顔料であるプラスチックピグメント(PP)を用いた。この実験で用いた密実型ポリスチレン系エマルジョンである2種類のPP(三井東圧化学 P-2、P-4)の性状を表4に示す。

表3のカラー配合中、炭酸カルシウムをすべてPPに置き換えた配合のカラーを、固形分が27〜33 %となるように調製し、フィルムに塗工した。調湿後、クラークこわさを測定し塗工層のヤング率を計算した。

3.8 デンプンのZ方向分布が曲げこわさに与える影響

均質な塗工層をシート上につくるためにフィルムをベースとし、表5に示す2種類の塗工カラーを用いた。まずカラーSFをワイヤーバー# 16で手塗り塗工し、自然乾燥させた。十分乾燥した後、カラーSCを同じ清浄なワイヤーバーで手塗り塗工し、自然乾燥させた。塗工する順序を変えてトップとアンダーの処方が逆になる試料も調製した。調湿後、純曲げこわさを測定した。

4. 結果と考察

4.1 塗工シートの曲げこわさとヤング率

図3に塗工フィルムのクラークこわさと純曲げこわさ、塗工紙の純曲げこわさを示す(純曲げこわさはどちらも初期げこわさ)。クラークこわさは曲げこわさを自重で除した次元であるので、比重が大きい割にヤング率の小さい塗工層が厚くなると低下した。手塗りでは塗工層の厚さを均一にするのが難しく、支持点側に来るのが塗工層の厚い側か薄い側かでクラークこわさの測定値に差が現れるのでデータのばらつきが大きくなった。純曲げこわさは形成された塗工層がになう曲げこわさの分がベース(原紙又はフィルム)の曲げこわさに加算されていくため、塗工量の増加に伴って上昇した。

図4は前図の3種類のデータから塗工層だけのヤング率を計算したものである。フィルムに塗工した場合、塗工層のヤング率はクラークこわさから計算したヤング率は約0.7 GPa、純曲げこわさからは約0.5 GPaであった。塗工厚さを均一にするのが難しかったため、ばらつきが大きくなったと考えられるが、塗工量には依存しなかった。また、フィルムや原紙自体のヤング率が2.8〜5.4 GPaであるのに比べると1桁小さい。一方、紙に塗工した場合は塗工量依存性が見られ、約17 g/m2以下では負の値となった試料もあった。これは明らかにヤング率が正しく計算されていないと考えられるが、この原因として、@吸水により原紙の厚さが増加し、ヤング率が低下した。A吸水により原紙の含水率が変化した。B塗工カラーが原紙表面のポアを埋め、また原紙が吸水することによって原紙のラフニングが起こり、塗工層/原紙界面が平坦ではなくなった。C塗工カラーの原紙への脱水過程で塗工層の組成や空隙構造が変化し、塗工層のヤング率自体フィルム上に形成された塗工層と実際に異なるものになった、などが考えられる。Cが原因しているとすれば紙に塗工した場合に特有の現象であり、フィルム上の塗工層の評価をしても塗工紙には適用できないことになるが、@〜Bが原因しているとすれば原紙に塗工して形成した塗工層のヤング率を正しく求めることはできないことになる。以下、順に予測されるこれらの原因を検討した。

4.2 吸水による原紙の変化

表6は原紙に蒸留水だけを吸収させ、乾燥、調湿したときの、紙の物性値の変化を示す。膨潤により厚さは6 %増加し、またいったん高含水率を経たときに示すヒステリシスの影響で、同一調湿条件でも含水率が大きくなるため坪量も2 %増加した。また、ヤング率も34 %低下した。このような変化は塗工紙の原紙層のヤング率として塗工前の原紙のヤング率の値を使うことができないので、正確な塗工層のヤング率を計算できないことを意味する。

4.3 塗工層/原紙界面の粗さの影響

ホットプレスを用いてサンドペーパーの粗い表面を転写したフィルムに塗工したシートの純曲げこわさ(初期曲げこわさ)を図5に示す。表面の粗いフィルムに塗工したシートより、ホットプレスだけを行った、表面の平滑なフィルムをベースにしたシートの方が純曲げこわさが大きくなった。これは塗工界面が平滑な方が同一塗工量でも曲げこわさが大きくなることを意味する。したがって、原紙へ塗工した場合は原紙のラフニングのために塗工界面は元の原紙表面より粗くなる )ので、塗工層のヤング率を正しく計算できないことを示唆している。

走査型電子顕微鏡により塗工界面の形状を観察した。塗工紙の断面を写真1に、塗工フィルムの断面を写真2に示す。原紙に塗工した場合、塗工層が原紙の隙間を埋めており、塗工層と原紙の界面が粗くなっている様子が観察される。フィルムとの界面は平滑で、塗工層の厚さも一定と見なせることがわかる。これは、図4で塗工紙から計算により求めた塗工層のヤング率と塗工フィルムから求めた場合の値が異なる理由の1つと考えられる。

4.4 デンプン及びプラスチックピグメントの効果

図6はデンプンとSBラテックスだけからなるブレンドフィルムをベースのPETフィルム上に形成させたのち、クラークこわさを測定し、ブレンドフィルムのヤング率を計算した結果を示す。デンプン比率の増加に従い、ブレンドフィルムのヤング率は急激に大きくなるのがわかる。デンプンの比率が33 %のときは図4で使用した塗工カラーと同じバインダー組成になるが、その時の塗工層のヤング率(0.66 GPa)に近い値0.60 GPa を示した。

図7はプラスチックピグメント(以下PP)を炭酸カルシウムの代わりに顔料として配合したときの塗工層のヤング率の変化をデンプンの配合部数(総バインダー量は15部)に対して示す。顕著なデンプンのヤング率向上効果が、PPの粒径(0.23 mmと0.50 mm)によらず観察された。一部のデータは負の値として計算されたが、塗工ムラ(局所的に厚い部分)のために厚さが平均値よりも大きく評価されたためと考えられる。PPの粒径が小さい方がヤング率が大きかった。これは粒径が小さいほうがカラーが乾燥・固化する際に緻密な構造ができたためと考えられる。炭酸カルシウムを顔料として用いた場合のヤング率(図4のデータの平均値)も併せてプロットした。小さい粒径のPPを用いた場合の塗工層のヤング率は炭酸カルシウムの場合とほぼ同じであった。しかし、PPは鉱物性顔料に比べて比重が小さいため塗工層のヤング率が同じでも自重に対する曲げ抵抗(クラークこわさ)を大きくできる長所がある。

4.5 デンプンのZ方向分布が曲げこわさに与える効果

塗工紙の曲げこわさを向上させる手法として、デンプンを多く配合した、ヤング率の高いカラーを、ダブル塗工の際に外側に配することを検討した。

図8は、総塗工量と塗工フィルムの純曲げこわさ(初期曲げこわさ)の関係を示す。デンプンを配合した塗工カラーを外側に塗工したサンプルの方が、内側に塗工したサンプルより大きい曲げこわさを示した。この結果は、ヤング率の高い塗工カラーをより外側に塗工することにより、塗工紙全体の曲げこわさを大きくすることができること示唆する。実際には、デンプンを多く含む塗工カラーを外側に配することは印刷時のピック強度を低下させる可能性があるので、他の性質を損なわない程度の配合量を検討する必要があると考えられる。

5. まとめ

  1. 塗工シート及びベース(原紙やPETフィルム)だけの曲げこわさ、厚さから、片面塗工した塗工層のヤング率を計算する式を導いた。また、クラークこわさの意味を理論的に明らかにし、それから塗工層のヤング率を計算する方法を確立した。
  2. 紙に塗工した場合は吸水により厚さ(膨潤)と坪量(ヒステリシス現象)が大きくなり、塗工界面は元の原紙表面より粗くなるため、未塗工原紙の厚さ、坪量、ヤング率を計算に用いると塗工層のヤング率を正しく計算することはできなかった。したがって非吸収性フィルム上に塗工層を形成すべきである。
  3. デンプンをSBラテックスに対して多く配合すると両者のブレンドフィルムのヤング率は上がった。塗工層のヤング率向上にデンプンは有用である。また、プラスチックピグメントは粒径が小さい方がヤング率大きくなったが、炭酸カルシウムの場合と同等であった。しかし、比重が小さいので自重による曲げ抵抗性が高くなる。
  4. デンプンを多く配合したヤング率の高い層を外側に配するダブル塗工によって塗工フィルム全体の曲げこわさを向上させることができた。
なお、この研究の1部は第42回日本木材学会大会(名古屋・1992年)及び平成5年度繊維学会年次大会研究発表会(東京・1993年)において発表した。

謝辞

材料を御提供いただいた白石工業梶A王子コーンスターチ梶A三井東圧化学梶A東亞合成化学鰍フ各社に感謝致します。また純曲げ試験に関し、ご教示頂いた内藤勉博士(日本製紙)に感謝致します。

引用文献

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Table 3 Formulation of coating color
Constituentparts
Calcium carbonate100
SB-latex10
Starch5
Sodium polyacrylate0.8
Solids content = 50%




Table 4 Resin constants of plastic pigments
P-2 P-4
Milky-white Milky-white
Styrene Styrene
Dense (not hollow) Dense(not hollow)
47.9 46.9
8.0 8.1
41 15
0.23 0.50




Table 5 Formulation of coating color for double coating
ConstituentSF(Starch-free)SC(Starch-containing)
Calcium carbonate100100
SB-latex1510
Starch05
Sodium polyacrylate0.8 0.8
unit: parts
Solids content = 50%




Table 6 Changes in sheet properties of wood-free paper by water application
PropertyNo water appl.
Average(Std. dev.)
After water appl.
Average(Std. dev.)
Thickness, mm80.2 (0.5)85.0 (0.8)
Basis weight, g/m264.3 (0.6)65.6 (0.5)
Pure bending stiffness, gf・cm1.22 (0.06)0.95 (0.13)
Young's Modulus, GPa2.77 (0.12) 1.82 (0.24)