(4)環境教育に取り入れる紙づくり(2010/5/11)

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御蔵島(みくらじま)は、伊豆諸島にある東京都の一部です。島の環境教育と森林保全活動に携わっており、島が誇れる特産品でありながら需要の伸びないツゲ材を活用すべく、「ツゲ材を利用した紙漉き体験」をこの4月24日に実施しました。紙はどのような樹種の端材からもできるので、ツゲである必要はないのですが、工夫すればこんなことにも使えるんだよという、ツゲ利用の起爆剤になってくれればよいという願いを込めて実施しました。村役場関係者の名刺や、観光土産の葉書くらいにはなりそうですが、本来は木材として有効活用して欲しいというのが本音です。アイデアと商魂次第で、「御蔵ツゲ」ブランドはブレークしてくれるはずです。

 

(3)環境にやさしい紙と古紙利用率(2010/4/27)

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古紙の利用率は2009年で63%に達している。これ以上利用率を上げることはできるのだろうか。却って上げない方がいいのだろうか。環境問題の命題とも言える、”環境にやさしいリサイクル”を考えてみよう。中国への古紙輸出、高古紙利用率による古紙の品質低下、古紙分別システムの多品種化、将来の紙の需要、紙生産以外の古紙利用用途、など考えなくてはならない要素はたくさんあります。

 

(2)紙の物性の基礎とやさしい測り方(2010/4/20)

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パルプ繊維の顕微鏡観察により針葉樹、広葉樹パルプ繊維の大きさを確認しました。
文化財保護用紙、ろ紙、中質紙のpHを測定しました。pH試験紙での測定ではどれもpH6程度で違いが出ませんでした。

研究室のpHメータで測定しなおしたところ、文化財保護用紙はpH8.2で、中質紙はpH6.6という結果になりました(脱イオン水ではpH6.6)。文化財保護用紙は炭酸カルシウムが添加されているためアルカリ性を示します。紙の成分であるセルロースは酸性下で加水分解するため、中和のために炭酸カルシウム(など?)を添加して製造している紙だからです。中質紙は中性でした。硫酸アルミニウム使用していると思われましたが、酸性ではありませんでした。

紙の弾性率測定を、曲げこわさから求める実験を行いました。机から10cm及び8cm張り出したコピー用紙(それぞれMD及びCD)がそれぞれ水平方向から、先端が3.5cm(表裏の測定いずれも3.5cm)及び3.5cm(4.5cmと2.5cm)垂れ下がりました。坪量60g/m2、厚さ100μmと仮定して計算してみてください。この計算は次回の講義の中で解説します。

(1)紙の起源、製造技術と機能(2010/4/13)

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ガイダンスなどを最初に行ないました。討論の時間で出た質問は、

  • 和紙は洋紙よりも強いのか?
  • 一般に繊維が長い方が強くなります。牛乳パック原紙やお持ち帰り用の紙袋は針葉樹パルプ繊維(長さ約3mm)を使うので、広葉樹パルプ繊維(長さ約1mm)を使う印刷用紙より丈夫です。和紙はさらに長く、10〜20mmもあるので、もっと強くなります。また繊維と繊維の間で水素結合を形成することにより紙の強度を発現していますが、和紙の繊維は長く、ちょうど布地のように繊維同士が絡まることも強度を上げている理由の1つと考えられます。
     
  • 和紙は障子などの明かり取りによいのか?
  • 紙が光を散乱して直射日光に広がりを持たせて部屋全体を照らすような効果があります。これは和紙だけではなく洋紙でも同じですが、障子は破れやすい紙で作るわけにはいかず、手が当たってもタフな紙である和紙を使います。タフさというのは強度そのものもさることながら適度に伸びてショックを吸収してくれる紙ということです。
     

受講される方、講義での説明や「アインシュタインの眼」『紙の不思議〜驚異の素材パワーに迫る〜』の内容について、質問、感想等を送ってください。

授業日と担当講師、授業内容など

月/日 講師 内容
4/13 江前 ガイダンス/紙の起源、製造技術と機能
4/20 江前 紙の物性の基礎とやさしい測り方
4/27 江前 環境にやさしい紙と古紙利用率
5/11 江前 環境教育に取り入れる紙づくり
5/18 齋藤 紙』から先端ナノ材料への展開
5/25 木村 紙の基本的な物性
6/1 木村 紙の歴史(和紙と洋紙)
6/8 木村 紙と印刷(1)
6/15 木村 紙と印刷(2)
6/22 磯貝 セルロースの結晶構造とナノファイバー
6/29 江前 先端的な材料として紙の応用
7/6 江前 「楽しい紙の科学」実験教室のやり方
7/13 江前 文化財としての紙

参考書など

  • 紙関係全般
    紙とパルプの科学,山内龍男著,京都大学出版会(2006)
    紙の文化事典, 尾鍋史彦総編集, 朝倉書店(2006)
    新しい紙の機能と工学, 門屋卓著, 裳華房(2001)
    トコトンやさしい紙の本,小宮英俊著,日刊工業新聞社(2001)
    紙・パルプの実際知識, 王子製紙編, 東洋経済新報社(2001)
    パルプおよび紙, 大江礼三郎他著, 文永堂(1991)
    紙の基礎と印刷適性−構造・物性・加工・印刷品質評価, 江前敏晴著, 江前敏晴ホームページ(2006)
     
  • 紙関連の専門分野
    木材の構造, 木材の化学, いずれも文永堂(1985頃)
    セルロースの材料科学, 磯貝明著, 東京大学出版会 (2001)
    最新紙のリサイクル100の知識, 王子製紙編, 東京書籍(1998)

Last update: 2010/05/10